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ついに屋外走行!「エーアイスーツケース」、はじめてのおつかい

今回公開された、屋外用エーアイスーツケースの写真

「人間みたい!」それが「エーアイスーツケース」を間近で見た感想でした。

「エーアイスーツケース」は、視覚障害者を目的地まで誘導するスーツケース型のロボット。にほんかがくみらいかん(以下、未来館)の館長で、IBMフェローでもある全盲のあさかわちえこしが出張の際に「スーツケースが自動で動き、道案内をしてくれたら」と感じたことがきっかけで開発が始まったプロジェクトです。

 

まち歩きをもっと楽に

現在、視覚に障害がある人は、人に誘導してもらう、盲導犬、点字ブロックやはくじょうがおもな歩行手段。とはいえ、障害物の有無や距離感などをつかむのが非常に難しいといいます。目隠しをして歩くと、短い距離でもものすごく遠くまで来たかのように感じたことってありませんか? 距離感がわからないなかで目的地まで歩き続けることは、そう簡単なことではありません。

あさかわしの「歩くことは目的地へ行くための手段であって、個人的にはまち歩きは楽しくない」との言葉からもわかるように、当事者の移動には不安がつきまといます。だからこそ、もっと楽にまち歩きができれば、という思いもあったといいます。

スーツケースの形状にしたのは、見た目も自然で、自分より先に障害物にぶつかってくれることがあるため、危険を検知できるという安心感があるからだそう。

 

2017年から開発スタート

「エーアイスーツケース」は2017年からあさかわしが客員教授を務める米国カーネギーメロン大学で開発が始まり、2019年からいっぱんしゃだんほうじんじせだいいどうしえんぎじゅつかいはつこんそーしあむが中心となり開発を推進しています。未来館では2021年に『日本科学未来館アクセシビリティラボ』を立ち上げ、前述のコンソーシアム等の外部の研究機関と共に開発をおこなっています。大きなモデルチェンジだけでも、今回で4代目だそう。

これまでも国内外の空港や日本橋室町地区、未来館など屋内において実証テストを重ね、このたびまちの中での運用を目指してはじめての屋外実証テストを実施。この日は公共交通機関と目的施設を結ぶまち歩きを想定し、未来館を起点にゆりかもめ「テレコムセンター」駅付近まで体験者を誘導して走行しました。

はくじょうとエーアイスーツケースとともに歩くあさかわしの写真
「エーアイスーツケース」とともに歩くあさかわし

屋外用「エーアイスーツケース」はここがちがう

同じ「エーアイスーツケース」でも、屋内用と屋外用では車輪やセンサーなどが屋内走行用とは異なるといいます。今回使用した屋外用の「エーアイスーツケース」の車輪は車道から歩道の段差などを乗り越えられるよう、力の強いモーターを内蔵した車輪を使用。

エーアイスーツケースの全体写真。車輪は通常のスーツケースの車輪よりかなり大きく、タイヤのような見た目で、通常のスーツケースと同じく、4つついています
力の強いモーターを内蔵した直径20センチメートルの大きな車輪

スーツケース本体の上部についているらいだーわ、自動運転の自動車にもついているようなセンサー。レーザー光線で周囲の壁や障害となる物や人までの距離を正確に測定でき、安全に移動できる場所を選んで走行します。

エーアイスーツケースの本体上部についているらいだーというセンサー
らいだー

 

また、屋外で高い精度で位置を測定するためのRTK(りあるたいむキネマティック)技術も搭載。RTKは、大気圏の状況や天候の影響を受け、乱れた状態で地上に届く人工衛星からの電波を、正確な緯度や経度がわかる基地局の測定データと比較することで補正する技術。これによって、「エーアイスーツケース」は誤差わずか10センチメートル程度の精度で位置を推定することが可能になっているといいます。

 

はやあるきくらいの速度で移動できる

これらの技術や夢がたくさん詰まった「エーアイスーツケース」、重さは25キログラムくらい、家庭用のコンセントで充電でき、一回の充電でにじかん程度の走行が可能といいます。最高速度は毎秒1メートル。時速にすると3600メートル。はやあるきくらいの速度での誘導が可能ということになります。

あさかわしがデモをする際、「スーツケースに引っ張られず、スーツケースといっしょに歩くことがポイント」と説明していましたが、言ってしまえば、それくらい早く進めるということ。

 

まるで「はじめてのおつかい」

デモの最中、はじめはスイスイ進んでいた「エーアイスーツケース」。手前に木や人など障害物となるものがあるとうまく避けていましたが、人が多すぎるとらいだーが認識する精度が低くなり、スーツケースが戸惑って立ち止まったり考え込む挙動をすることも。

人間が初めての場所を訪れるときに立ち止まって周囲を見渡したり位置を確認したりするように、「エーアイスーツケース」も迷うらしい。それわまるで、人間のようでした。

横断歩道のまえでエーアイスーツケースとあさかわしがとまっている写真
このあと、エーアイスーツケースが考え込んでいました

人間だってはじめからあるける人はいないし、ほんの数百メートルの距離だって、立派な進歩です。立ちどまり、考えて、ときには迷うことだって学習のひとつ。すべて次につながる必要なステップです。ちょこちょこ動いたりしてもがいている動作も、なんだか「はじめてのおつかい」を見ているような感覚になってきて、思わず「がんばれ!」と応援したくなりました。

 

メガネをはずして体験してみた

あさかわしのデモのあと、どうしてもやってみたくて体験させてもらいました。普段はメガネをかけていますが、思いきってメガネをはずしてハンドルを握ってみました。裸眼視力は両目ともに0.1以下、鏡に映った自分の顔もぼやける程度。じつは視野欠損もあります。だからこそ、「エーアイスーツケース」は個人的にも気になっていました。

エーアイスーツケースのレクチャーをうけている様子の写真
さあ、歩くぞ

 

スーツケースのハンドルにタッチセンサーがついており、握ったり手を離したりすることでスーツケースがすすんだりとまったりします。

いざ「エーアイスーツケース」とともに歩き出しました。首につけたネックスピーカーからガイドが聞こえてくることや、周囲に人がいる安心感はかなり大きかったと思いますが、最高速度まではいかなくとも、想像以上に快適で、メガネをかけて歩くいつもの速度で歩いてもほとんど怖くありませんでした。実用化されたら、かなり心強い相棒になることでしょう。

エーアイスーツケースのハンドル部分の写真
ハンドル部分

 

待つのではなく、できるところからはじめる

現状は道路交通法で視覚障害者ははくじょうを持つことが義務づけられているため、「エーアイスーツケース」を使うときははくじょうも使用しなければならず、両手がふさがってしまいます。

また、前述した、人がたくさんいる場所での走行が不安定になること、バッテリーをたくさん積んでいるため飛行機にはまだ載せられないといった課題はあるものの、着実に一歩ずつ前進しています。今はスーツケースの中はモーターやバッテリーでいっぱいですが、いずれ技術も進歩して、荷物を詰め込めるようになるかもしれません。

「待つのではなく、できるところからはじめる」というあさかわしの言葉のとおり、まずはあらかじめ設定した特定のエリア内からの展開を考えているそう。

一生懸命バランスをとりながら、よちよち歩きはじめた赤ちゃんが、いつのまにか歩きかたをおぼえて、いきたいところへ一人で歩いて行くように。「エーアイスーツケース」が明日につながる大きな一歩を踏み出しました。”歩く相棒”として活躍する日もきっともうすぐでしょう。

 

日本科学未来館「未来館アクセシビリティラボ」ページURLは以下から

https://www.miraikan.jst.go.jp/research/AccessibilityLab/

 

本文ここまで

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