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インクルーシブランゲージってなに?アメリカ在住の専門家に聞いてみた

テーブルの上におかれたパソコンとコーヒー、英字新聞の写真

視覚障害者の英語表現について、ひとつまえの記事でアメリカ在住、 UXPRESS(ユーエックスプレス)代表の井出さんに伺いました。

今回は視覚障害から範囲を広げて、障害者、さらにInclusive Language(インクルーシブ ランゲージ)についてお話を伺っていきます。

ぜひ前回の記事と合わせてご覧ください。

 

前回の記事は以下から

英語で「視覚障害者」はどう表現する?アメリカ在住の専門家に聞いてみた

 

Inclusive Languageという考えかた

井出さん:言語は使いかたや選ぶ言葉によって、思いやりや愛情を表現する手段にもなれば、人を傷つける凶器にもなります。

海外では多様性に配慮した言語をInclusive Languageと呼びます。

海外に限らず日本でもそうなりつつありますが、多様な人種、宗教、性自認(せいじにん)の人々が混在する現代社会では、相手の立場を考慮した言葉づかいが求められます。

 

「障害者」という言葉の英語表現にも使い分けが必要

井出さん:Inclusive Languageのひとつの例として、障害者を表すPeople with disabilitiesやDisabled peopleといったものがありますが、このふたつの表現も使い分けが必要です。

以下に紹介するBusiness Disability Forumにもあるように、使い分けている背景にはいくつもの要素が複雑に絡み合っているため、どちらの表現が正解というものはありません。

 

Business Disability ForumのURLは以下から

https://businessdisabilityforum.org.uk/about-us/media-centre/disability-smart-language/

 

使い分けの背景にある「要素」とは

井出さん:具体的にどんな要素があるのか、気になりますよね。わたしはアメリカの大学院で応用言語学(言語の伝えかた・教えかた)を専攻したのですが、最低でも以下の7つの要素が含まれていると考えます。

 

1. 地域性

地域ごとに慣例として使われる言葉づかいは異なります。前回お伝えしたように、アメリカとイギリスでは好まれる表現が異なります。

「障害者」の英語表現として、アメリカではPeople with disabilitiesが、イギリスではDisabled peopleが多く使われています。その理由として、つぎに紹介する2のPeople Firstと、3のIdentity Firstが影響しています。

 

2. People-First

現在、海外では一般的にPeople-Firstの表現のほうが、よりインクルーシブで障害者への敬意を含んだ表現とされています。

その評価の背景には、健常者にも障害者にも共通する「人」が「障害」よりも先に来ているからで、Equity(公平)の精神が表れていると言えます。

 

参考URLは以下から

https://www.nea.org/words-matter-disability-language-etiquette

 

3. Identity-First

イギリスではIdentity-Firstの表現が多く使われています。その背景は「障害もその人の持つ重要な一部・アイデンティティ」であるという考えからです。

言いかたを変えると、障害を害と見なすゆえに、Disabled(障害)が先にくることがネガティブに捉えられるということです。

イギリスではSocial Modelが採用されており、障害を治療すべき症状と捉えるMedical modelと違い、障害を持つ人に対する社会的な偏見や障壁を取り除くことが重視されています。

 

参考URLは以下から

https://www.disabilityrightsuk.org/social-model-disability-language

 

4. 言語

これは言語的な見地からの影響で、各言語の歴史や成り立ちにも関わってきますが、たとえば日本語のように言語によって前置修飾(ぜんちしゅうしょく)が一般的な言語と、フランス語のように後置修飾(こうちしゅうしょく)が一般的な言語、そして英語のように両方を同程度の頻度で使用する言語があります。

また、修飾する語の長さが長ければ名詞のうしろに、みじかければ前に来るのが一般的です。付加形容詞と呼ばれるものですが、フランス語も一般的には形容詞は後ろに置かれます。

しかし、petit「小さい」と grand「大きい」とか、jeune「若い」と vieux「年をとった」とか、bon「良い」と mauvais「悪い」とか、beau「美しい」とか joli「きれいな」といった、短くてよく使われる形容詞は、名詞の前に置かれます。

一方で日本語の場合、英語のように後ろから名詞を修飾することは、倒置法のように強調効果を意図的に演出するケース以外はほとんどありません。

そのため「聴覚障害者」という語も「聴覚」のあとに「障害」、そのあとに「者(人)」というように直後の語にかかっています。

言語によって標準とされる語順が異なることから、どちらの表現が自然か、違和感が無いかにも影響があると考えます。

 

参考URLは以下から

https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/column/ghf43
https://fereple.com/writers-apc/inversion-method/

 

5. 障害の種類 

自閉スペクトラム症や聴覚障害者のコミュニティでは、自分たちを表現する際に、好んでIdentity Firstの表現を使う傾向があります。

たとえば、海外ではDeaf(聾者)の人の多くは、「聞こえない」ことを「不足」とは考えていないので、Loss(損失)やImpaired(損なわれた)という表現で呼ばれることに抵抗を感じるからです。

 

参考URLは以下から
https://healthjournalism.org/blog/2019/07/identity-first-vs-person-first-language-is-an-important-distinction/
https://autisticadvocacy.org/about-asan/identity-first-language/
https://businessdisabilityforum.org.uk/resource/inclusive-language-what-it-is-and-why-it-is-important-2/

ちなみに、Deafとdeafのように、先頭のDが大文字か小文字かによっても、両者の意味は異なります。これは日本ではあまり知られていないことかもしれません。

 

Deaf(Dが大文字)

Deafは一般的に聴覚障害者のなかでも、特にろう者(ろうしゃ)のかたで、手話を主なコミュニケーションとして用いる人を指します。

また、彼らが作るDeaf communityを指す場合にも用いられます。Deaf communityは独自の文化を持っており、結び付きが強いのが特徴です。

そのため、海外ではDeafnessやDeaf communityをSocio-Cultural perspective(社会文化的観点)から説明するケースが多いです。

 

deaf(Dが小文字)

小文字のdeafを使用するのは、Deafnessを医学的な身体症状として表現する場合が多いです。

そして、deafは重度の聴覚障がい以上の聴覚を失った人たちの中で、聴覚を失いながらも、手話を主なコミュニケーションとはしない人たちを指す場合に使われます。

Deafと違い、特定のコミュニティを指すことはありません。

 

参考URLは以下から

https://www.project-easier.eu/news/2021/08/11/deaf-or-deaf/

https://accessibe.com/glossary/deaf-vs-deaf

 

6. 時勢

表現は時代とともに移り変わります。たとえば、以前、車椅子ユーザーに関する英語表現としてはA person bound in a wheelchairやPeople in a wheelchairなどが使われていました。

しかし現在ではPeople using a wheelchairやA wheelchair userなどの表現が一般的です。

その背景にあるのはメンタリティと障害者の自立です。Charity Modelにもとづいた「障害を持つ人が車椅子(という檻(おり))に閉じ込められている」といった受動的な表現から、車椅子というモビリティツールを操っているという能動的な表現に変わってきているのです。

障害がある側の視点に立てば当然ですが、「助け(たすけ)が必要な、かわいそうな存在」と捉えられるような表現は好ましいはずがありません。Anti-Ablismのあらわれと言ってもいいかもしれません。

 

参考URLは以下から

https://canbc.org/blog/proper-terminology-dont-use-confined-to-or-wheelchair-bound/
https://www.quora.com/What-do-people-who-use-wheelchairs-prefer-to-be-called-wheelchair-users-or-people-in-wheelchairs

 

7.  個人差

人権意識の高さや、成長過程で周囲に障害を持つ家族や友人がいる環境だったかなど、個人個人により障害者に対する理解、意識、距離感は異なります。

そのため、同じ文化圏や言語に所属する人同士でも、当然違いは出てきます。

以上のように、障害者に関する表現方法の違いには、少なくとも上記の7つの要素が絡んでいると考えます。

 

People with disabilitiesの略称について

井出さん:People with disabilitiesの略称としてPwDと表記されることがありますが、一般的に海外では可能な限り略さずに表記することが推奨されています。特に国連などの公的な文書では、略称の使用は禁止されています。

しかし先に挙げたような背景や思想的な要素とはまったく別に、例えばプレゼン資料などスペースに限りがある場合にはアクセシビリティのカンファレンスなどでもPwDの略称が使用されることもあります。こちらについてのデータはないので、あくまで経験則(けいけんそく)なのですが。

ただ、その場合も初出の際にPeople with disabilities (Pw Doe PWD)と併記してから使うなど配慮するのが一般的です。

 

参考URLは以下から

https://www.edf-feph.org/content/uploads/2021/02/The-United-Nations-Committee-on-the-Rights-of-Persons-with-Disabilities-guide-for-DPO.pdf
https://participation.cbm.org/in-practice/inclusive-language-and-interaction/language-dos-and-donts

 

Inclusive Languageのゴールデンルール

井出さん:実際には以上の7つの要素に加えてその場の文脈などがさらに加味されるので、なかなか複雑です。

そのため最も無難なゴールデンルールとしては、障害のあるかたと直接コミュニケーションを取るケースであれば、失礼にあたらないか、不快に感じないかを相手に直接確認すること、もし不快に受け取られる場合は、どのような呼びかたを使うべきかを最初に確認することが大切です。相手に確認する時点で、配慮の気持ちは相手に必ず伝わります。

Inclusive Languageはスキルの1つです。上達のスピードは違えど、誰でも上達が可能です。ただ、スキルである以上、残念ながら上達の過程において失敗はつきものです。

忘れてはならないのは、その過程においてもあなたの向こうにいる障害のあるかたたちは、多少なりとも不快な思いを経験しているということ。

そんなとき、せめてそこに相手への敬意を持っていれば、何か不慮の間違いが起きた時、お互いにとってその心のダメージを少なくすることができます。

 

監修:井出 健太郎

米国ソニーでUX(ユーザーエクスペリエンス)や CX(カスタマーエクスペリエンス)チームのリーダーを務めたのち、日本企業の海外進出をサポートするため2015年UXPRESS(ユーエックスプレス)を立ち上げる。

同社では「早く・安く・フレキシブルに」デザイン・リサーチを提供できるように「アジャイルUXアプローチ」を提唱し、サポートしている企業はこの10年間で60社にもおよぶ。

 

UXPRESSのURLは以下から

https://uxpress.org/?lang=ja

 

本文ここまで

 

 

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