春はなぜ眠い?――「春眠暁を覚えず」は本当なのか春はなぜ眠い? 「しゅんみんあかつきをおぼえず」は本当なのか

春になると、朝がつらい…?
「春眠暁を覚えず」という言葉があります。
春になると、なんだか朝がつらい。いつもと同じ時間に目覚ましをかけているのに…、まだ寝ていたい。毎年春になると私が感じる感覚と見事に合致する言葉です。
この言葉は、もともと中国・唐代の詩人、孟浩然(もうこうねん)の漢詩『春暁』の一節です。そこでは、春の朝ののどかさや心地よさが美しく表現されています。つまり、私のように「もっと寝かせてくれー」という心の叫び(笑)から生まれた言葉ではなく、春の気持ちよさをうたった文学表現だったのですね。

生理学的にも春は眠くなるのか
では、生理学的にも春は眠くなりやすいのでしょうか。
結論から言うと、「春は眠くなる」と言い切れるほど、客観性の高い強い根拠があるわけではありません。ただし、春に「起きにくい」「眠い」「ぼんやりする」と感じやすくなることを説明できる要因はいくつかあります。季節と睡眠の関係をまとめたレビューでも、睡眠時間や睡眠リズムには季節差がみられる可能性がある一方で、その影響はそう大きくはなく、一定しないことも示されています。
理由のひとつは「日の光」の変化

まず考えられるのが、光環境の変化です。
春は冬から夏へ向かう途中で、日光の強さや明るくなりはじめる時間がぐっと変わる季節です。人の体内時計は光の影響を強く受けるため、朝夕の明るさの変化によって、睡眠と覚醒のリズムが揺れやすくなります。大きな不調ではなくても、「なんとなく朝のすっきり感が落ちる」と感じる人がいても不思議ではありません。気温変化や光の変化が睡眠に影響しうることは、睡眠研究のレビューでも報告されています。
春は生活も変わりやすい

生活環境の変化も見逃せません。
春は年度変わりに伴う異動や進学、転勤など、生活のリズムが変わりやすい時期です。環境が変わると、自分が思っている以上に心身には負荷がかかります。寝る時刻や起きる時刻が少し乱れるだけでも、朝のだるさは出やすくなります。
つまり「春だから眠い」というより、「眠気が出やすい環境変化が重なる季節が春」と考える方が自然かもしれません。
花粉症も春の眠気の一因かも
さらに、現代人の現実的な理由として、花粉症やアレルギー性鼻炎があります。
鼻づまりなどの不調があると睡眠は浅くなりやすいですし、そうした症状を抑えるための薬の影響もあれば、眠った時間が足りていても眠気が残ることは考えられます。
アレルギー性鼻炎と睡眠の関係をまとめた研究では、睡眠の質の低下や日中の眠気との関連が報告されています。現代人にとってはこうした睡眠の乱れの関与は少なからずありそうです。
春の眠気は、いくつもの要因の重なり

春の眠気は、ひとつの原因だけで説明できるものではありません。
日光や気温の変化、生活リズムの変化、花粉症やアレルギー、そして春ならではのおだやかな気候。そうしたものが少しずつ重なって、「なんだか眠いなあ」「もっと眠っていたい」という感覚を作っているのでしょう。
「春眠暁を覚えず」は、生理学的根拠のはっきりした言葉ではなく、1300年以上も前の文学表現の中の言葉です。けれど、春という季節の心地よさと、人のからだのゆらぎを、やわらかく言い当てた見事な一言だからこそ、長い年月を経て大きく環境が変化した現代で、今なお変わらず共感させられる言葉として生き続けているのかもしれません。
いえ、むしろ現代の方が、複雑な状況変化を乗り越えるための癒し…十分な眠りが必要なのに足りていない人が多いからこそではないでしょうか。

皆さま、どうかこの春は少しでもゆったりのんびり眠って、疲れを残さず元気にお過ごしくださいますように。私ものどかな空気の中でゆっくり眠りたいなぁ…
本文ここまで
参考文献
1) 日本吟剣詩舞振興会. 春暁 - 中国の漢詩.
2) Zolfaghari S, et al. Effects of Season and Daylight Saving Time Shifts on Sleep and Associated Disorders: A Systematic Review. 2023.
3) Liu J, et al. The association between allergic rhinitis and sleep: A systematic review and meta-analysis of observational studies. 2020.
4) Yang T, et al. Mutual Influence Between Allergic Rhinitis and Sleep. 2024.




